ワニ(鰐、鱷)は、標準和名で「ワニ目(ワニもく)」と呼ばれ、学名では「ordo Crocodilia」として分類される、肉食性水棲爬虫類の俗称。
中生代三畳紀中期に出現して以来、初期を除く全ての時代を通して、ニシキヘビ等の大蛇と並び、淡水域の生態系において生態ピラミッドの最高次消費者の地位を占めてきた動物群である。
[編集] 生物的特徴
[編集] 進化
ワニ目は、中生代三畳紀中期に出現した絶滅グループ・スフェノスクス亜目を始原とし、原鰐亜目・中鰐亜目を経て、唯一の現存亜目である正鰐亜目につながっており、分類学上はそれら全てを「ワニ」と言う。
現生の動物群の中で鳥類とは進化系統上最も近縁の関係で、ともに主竜類に属する。なお、同じ主竜類中には絶滅した翼竜や鳥類の祖先である恐竜も含まれる。ワニ目は、恐竜や翼竜が属する鳥頸類と並んで主竜類を代表する二大グループであるクルロタルシ類の唯一の現生動物である。
三畳紀より大きさの違いはあれ、形態的にはほとんど変化していない。パンゲア大陸ならびゴンドワナ大陸の分裂により生じた浅瀬の海や沼沢地に適応するために今日の形態に進化した。恐竜よりもわずかに古い時代から地球上に存在し続けている動物群である。三畳紀末期において大量絶滅が起きたことで、繁栄の絶頂にあったクルロタルシ類は、そのほとんどが絶滅。これ以降、恐竜が繁栄していくことになるが、クルロタルシ類の中においてワニ類は唯一、絶滅を免れていた。続く恐竜の栄えたジュラ紀、白亜紀は彼等にとっても繁栄の時代であり、陸棲種、海棲種、植物食種、濾過摂食(プランクトン食)種、超大型種など多様な環境に適応した種を数多く生み出した。また、恐竜が絶滅に追い込まれた白亜紀末の大量絶滅を、� ��らが(前述のような多様な種を失いながらも)なぜ生き延びられたのかについては解明されていない。
[編集] 形態
長い吻と扁平な長い尾を持つ。背面は角質化した丈夫な鱗で覆われており、眼と鼻孔のみが水面上に露出するような配置になっている。イリエワニ、オリノコワニでは全長7メートルに達する記録もあるが、キュビエムカシカイマン、ニシアフリカコビトワニなどの小型種では、1.5メートルほどで成熟する。大型種では体重1トンに達する個体も存在するなど、現生爬虫類としては最重の一群を含む。
[編集] 生態
現生種は熱帯から亜熱帯にかけて23種が分布し、淡水域(河川・湖沼)および一部の海域(海岸を主とする海)に棲息する。水場からあまり離れることはない。
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現生種は、おもに魚類・甲殻類・貝類といった水棲生物や、水場に現れた爬虫類・哺乳類などを捕食する(上述のように絶滅種まで含めると、非常に多様性に富んだ分類群で、この食性に当てはまらない種も相当数ある)。水中では四肢を体側に密着させて、体を大きく波打たせ、尾を左右に振り、すばやく泳ぐ。水面に浮かび、岸辺に近づく動物を待ち構えていることが多い。尾の力を利用して水面上に垂直に後ろ足を水面に出すまで飛び上がることもできる。陸上では鈍重なイメージがあるが、短距離ならば走る事もできる(オーストラリアワニやナイルワニなど走る事ができる種がいる一方、インドガビアルなど水棲が強い種は這う程度である)。陸上で日光浴をしているときは、体温調節のために口を大きく開けていることが多� ��。ヒトが捕まえる場合、後ろ側から近づき背中の上に跨いで口にロープを掛ければ(閉じる力は大きいが開く力はそれほどでもない)無力化することが出来る。
アフリカのワニチドリという鳥は、ナイルワニの口の中の餌の残りをついばみ、ワニの口の掃除をしているとされ、共生の例として取り上げられることもあるが、実際には積極的についばむ行動はほとんど観察されなかったという報告もあり、懐疑的な意見もある。
繁殖期のオスはメスを誘うために大きな鳴き声を挙げ、幼体は危険を感じると独特の鳴き声でメスを呼ぶなど、個体間のコミュニケーションが発達しており、爬虫類の中でもっとも社会性があると言われている。メスは産卵のために巣を作り、卵が孵化するまで保護したり、孵化直後の幼体を保護する種類もある。また、トカゲやヘビのような有鱗目の交尾に用いられる雄性生殖器が1対の半陰茎であるのに対し、ワニでは対を成さない1本の陰茎である。
強力な免疫機構を持ち、不潔な泥水の中で四肢を失うような大きな傷を受けても、重篤な感染症はほとんど発生しない。1998年には、ペニシリンに耐性を持ってしまった黄色ブドウ球菌などに対してワニの血液中のいくつかの抗体が殺菌能力を有することが報告され、ワニの血清はHIV(エイズウイルス)を無力化する能力を持つことも明らかにされている。
さまざまな爬虫類で見られるように、ワニでも胚の発生時の環境温度によって性別が分化し、特定の温度帯以外では片方の性に偏ってしまうという性決定様式を持っている。そのため地球温暖化の影響で性別のバランスが崩れることが懸念されている。
[編集] 系統
[編集] 下位分類
現生のワニ目はすべて正鰐亜目に属し、アリゲーター科、クロコダイル科、ガビアル科の3科に分けられることが多い。このうちガビアル科は他の2科と比べて非常に特異な分類群とされ、古い形質を残しているとも、逆に特殊化が進んでいるとも言われてきた。しかし、形態形質の詳細な比較と再評価から、クロコダイルとガビアルが近縁であり、ガビアルはクロコダイル科に含まれるとする説もある。ワニの祖先である原鰐類は三畳紀に登場し、中生代の地層からはさまざまなワニの化石が発見されているが、それらの系統関係には諸説があり、一致した見解は得られていないようである。
アリゲーター科 Alligatoridae
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- 口を閉じた際には、下顎の歯は外からは見えない。鼻面は、やや丸みを帯びている。
クロコダイル科 Crocodylidae
- アリゲーター科と違い、口を閉じた際に下顎の前から4番目の歯が外から見える。鼻面は、やや尖っている。
ガビアル科 Gavialidae
- クロコダイル科に含める説もあり。鼻面・口吻は非常に細長い。
[編集] 人間との関わり
[編集] 呼称
[編集] 日本語名
日本にはワニ類が棲息しないが、「わに」という名詞は古来より存在した。すなわち、この言葉はもともとワニ類以外の何かを指していたことになる。詳細は因幡の白兎参照。
定説によれば、「わに」は、元来サメ類を指す名称であり、現在でも山陰の一部などの方言でサメを指して「わに」と呼ぶのはその痕跡である。説話『因幡の白兎』や各地の民話に登場する「わに」はサメを意味していたと考えるのが妥当である[1]。
大陸との接触以降、古い中国語でイリエワニを指す語であった「鰐」という字・概念が輸入された。『和名類聚抄』では「鰐」を「和邇」と訓じ、
似鱉、有四足、喙長三尺、甚利歯、虎及大鹿渡水、鰐撃之、皆中断
鱉(スッポン、もしくは何らかの水生爬虫類)に似て四足あり、吻長3尺、歯は非常に鋭い。虎や大鹿が水を渡ると攻撃し、仕留めて断つ
と解説している。このような生き物は当時の日本人にとって全く未知[2] ではあったが、考えうるかぎりで最もイメージの近い[3] 生物として「わに」、すなわち日本近海に見られるサメを連想し、「鰐」の訓を「わに」として結びつけたのであろうと推測される。 とは言え、「鰐」がイメージのしづらい未知の生物であることに変わりはなく、長い間「鰐」とサメとは明確に区別されることがなかった。
近代以降、「わに」は学術的に再定義され、明確にワニ目の動物を意味することとなった。 特筆すべき点として、シロワニ、ミズワニなど一部のサメは、漁業者の間で伝えられてきた呼称を採用し、「ワニ」の名を戴いたまま現在に至っている。
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[編集] 日本語名以外
英語名 alligator (アリゲーター)はスペイン語: "el lagarto (de India)" (エル・ラガルト(・デ・インディア))「(インドの)とかげ」が訛ったもの。 crocodile (クロコダイル)は 元来「ナイルワニ」を意味した古典ギリシア語: κροκοδιλος (krokodilos; クロコディロス)から。 gavial (ガビアル)は gharial (ガリアル)の誤植が定着したもので、ヒンディー語 ghariyāl (ガリヤール)(意:壷を持つ者)[要出典]からの命名とされる。中国語では鼉(繁体字:ダ)が一般的で、これはヨウスコウアリゲーターを意味する。鰐で表記されるものは、古代中国南部に生息していたイリエワニなどを意味した。竜や蛟なども、特定の種を意味していたものと思われる。
[編集] 神話・伝承
ワニの棲息する地方では、水泳中の人間が襲われることもあり、ワニは邪悪な動物、魔性の動物とされていることが多い。一方で、ワニを神聖視する例もまた多く見られ、世界中にワニの姿をした神がいる。古代エジプトでは、ワニは豊穣や、ナイル川そのものを象徴し、テーベではワニの頭部を持つセベク神の信仰が盛んであった。神殿ではワニが飼育され、神官が餌を与え、多数のワニのミイラが作られた。インドにもワニを神聖な生き物として飼う寺院がある。日本の、船の守護神である海神の金毘羅権現も、サンスクリット語でワニを意味するクンビーラに由来するという。中国の伝説上の動物、竜のイメージの原型は、絶滅したマチカネワニではないかという説[4] もある。また、パプアニューギニア、インドネシア、カメルーンなど世界各地に、ワニを自分の氏族のトーテム(祖霊)として祀る人々がいる。ブラジルのアマゾン川流域では、ワニのペニスは幸運を呼び込むものとして祀られている。西洋では、ワニは涙を流して獲物を油断させるという伝承があり、「ワニの涙」は、偽りを意味した。
[編集] 利用
ワニの肉は淡白な味で、鶏肉のような食感をもつ。食肉用に飼育されたものは特に臭みはない。高蛋白低カロリー食の健康食品として売り出されている。今日キューバではワニ料理レストランが観光客に供されている。オーストラリアでは日常用の食材として、スーパーマーケットにワニ肉が並べられている。日本では静岡県湖西市で食用のための養殖が行われている[5]。愛知万博では、オーストラリア館などでワニ肉が振舞われた[6]。
ワニの革は盾や甲冑に貼られてきた。現在では鞄・ベルトなどに加工されて利用されている。
最近では、ワニの強力な免疫力[7],[8] を応用して、ワニの血清をHIVの治療に役立てようとする動きもある[9]。
かつて主に皮革用として乱獲され、棲息数が激減した。現在では野生個体は保護され、全種がワシントン条約にリストアップされている。各地で養殖が行われていて、個体数が回復したケースもあるが、密猟と棲息地の開発のため、絶滅が危惧されている個体群、種も少なくない。
- ^ 異説もある。たとえば『因幡の白兎』は実際にヨウスコウアリゲーターを目にしたことのあった古事記成立期の渡来人による説話であり、したがってそこに登場する「わに」はワニ類を指すと考えるべき、とする [1]。ただし仮にそうであったとしても、民衆によって語り伝えられる段階においては誰もワニ類を見たことがないわけで、本来、ワニを指していた「わに」のイメージが既知の生物に置き換えられていったであろうことは想像に難くない。
- ^ 和名抄にあるスッポンはよく知られていた。
- ^ 浅瀬に並ぶものとしては同じ軟骨魚類のエイの方がイメージが近い。
- ^ 「龍」の字は甲骨文字の時代にはマチカネワニを指していたとの青木良輔の論文「大分県津房川層のワニ化石」(2001)で示された説。
- ^ "日本初の食用ワニ養殖場へ潜入!". 静岡朝日テレビ ピエール瀧のしょんないTV (2011年6月21日). 2011年6月22日閲覧。
- ^ オーストラリア館 「ザ・バーベキュー」 珍しい「ワニロール」とジューシーなオージービーフを EXPO 2005 AICHI,JAPAN
- ^ Merchant ME, Pallansch M, Paulman RL, Wells JB, Nalca A, Ptak R (2005). "Antiviral activity of serum from the American alligator (Alligator mississippiensis)". Antiviral Res 66 (1): 35-8. PMID 15781130
- ^ Merchant ME, Roche CM, Thibodeaux D, Elsey RM (2005). "Identification of alternative pathway serum complement activity in the blood of the American alligator (Alligator mississippiensis)". Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol 141 (3): 281-8. PMID 15921941
- ^ Alligator blood may put the bite on antibiotic-resistant infections - PHYSORG.com
[編集] AE">参考文献
- 青木良輔 『ワニと龍』 平凡社、2001年
- 荒俣宏 『世界大博物図鑑』第4巻[両生・爬虫類] 平凡社、1990年、294-301頁。
- 太田英利監修 『爬虫類と両生類の写真図鑑』 日本ヴォーグ社、2001年。
- 松井孝爾 『図説・なぜヘビにはあしがないか』 講談社、1990年。
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